こんなん読んだ(2020年12月)

最近読んだ本をランダムに。追加していくことになるんじゃないかしらね。

標葉隆馬(2020)『責任ある科学技術ガバナンス』ナカニシヤ出版.(12月27日読了)

科学技術評価と科学技術政策に関する、学部~大学院レベルのテキスト。科学技術政策と研究評価の現状と課題(第1部)、科学コミュニケーション(第2部)、科学技術のガバナンス(第3部)の3部構成。もともと論文として発表された文章を再編したものなので、独学教科書としてはたぶんキツい。また、科学技術ガバナンスとしてのRRI(Responsible Research & Innovation)やELSI(Ethical, Legal, and Social Issues)は、学際的分野でいろいろなアプローチが存在するので、たとえば科学技術倫理などの視点からのRRIやELSIを知りたい場合は別の書籍が必要になりそう。

第1部は、世界的な(主に米国・欧州)の潮流の中で、1980年代以降の日本の科学技術政策がどのように展開したか示したうえで(第1章、2章)、日本の科学技術の評価制度の現在と課題を示す(第3章)。「…日本の研究開発評価の制度化とその変化については、科学技術政策、学術政策、行政改革といった異なる背景のもとで、必ずしも整合性がとられないままに同時に複数の議論がなされ、制度の導入がなされてきたことが特徴」(62)という指摘は、確かに納得。

第2部は科学コミュニケーション。科学技術に関する報道のフレーミングの時間的変化に関する研究は興味深かった。書き手の変化という話もおもしろい(第4章、第8章)。再生医療の科学コミュニケーションに対する専門家と一般人の関心の違い(前者はしくみや可能性を伝えたい、後者はリスクとその責任と保険などについて知りたい)がわかる調査結果は興味深い。確かに両者とも再生医療でどのような治療が可能かに70%以上の人が関心をもっているものの、しくみや可能性に中心がある専門家と、リスクとその責任という関心のある一般人では、やはり見ている方向が違うことがわかる(第6章)。第5章は科学コミュニケーションの経路に関してまとまっているのがよい。

科学技術ガバナンスは、欧州連合EU)が資金支出するプロジェクトなどで義務づけられるRRIと、米国発の科学技術の倫理的・法的・社会的側面の考察・評価を行うELSIに関して、実際の評価項目等を示しながら、科学技術ガバナンスとその基礎となるインパクト評価を担う人材養成をどのように行うかに関して考察する。研究評価に関しては人材養成が確かに重要なポイントなので(欧州の研究評価の標準化プロジェクトを情報系学会で紹介したところ、この点について質問された)、考察を進める重要な基礎となりそうな論考が並ぶ。ただ、現在のところ、専門家養成ができるだけ関心を専門化させ、深く思考を進めることを求めているので、科学技術専門家がかかわるにしても、インパクト評価は、より幅広い視野の人間が必要だろう。人文・社会科学系のかかわりについても指摘されているとおり。

現在書いている論考に関連して何か示唆するものがないかなあと読んだのだけど、残念ながら直接の示唆はなかったが、上記のようなことで勉強になった。