こんなん聞いた(2021年3月)

今月はなんだかいろいろオンラインの学会やら、研究会、コンファレンスなんか聞いているぞ。俺日記。 

岡山弁護士会シリーズ憲法講演会No.26
山本龍彦慶応義塾大学教授「AI時代におけるプライバシー:情報自己決定権の確立に向けて」2021年2月27日13時~15時

情報教育センター分室長から、プライバシーにかかわる話題で、センターに関係するかもしれないので聞いておいて、、、と言われて、聴講。結構たくさんメモ取って話を聞いた。いろいろと学説上の対立があるのは、本読んでるだけじゃわかんなくて、専門家の話を聞くべきねと思った。

電子情報通信学会技術と社会・倫理研究会(SITE研究会)(併催:インターネットアーキテクチャ研究会(IA研究会)、連催:情報処理学会インターネットと運用技術研究会(IoT研究会))3月1日-3月2日

現在本拠としてお世話になっているSITE研究会の恒例3月研究会。3月は、毎年IA研究会・IoT研究会とご一緒している。技術と社会・倫理にかかわるSITE研究会の研究報告に加えて、インターネット技術に関する最先端の研究が聞けて非常にありがたい機会。今回は2日目の午後のセッションの座長を務めたが、座長の素人質問にもみなさん温かく対応いただき(とくに、IA研究会のお二人は大学院生で、いずれもしっかりとした発表と質疑応答の受け答え)、とても勉強になった。KDDI総合研究所の加藤先生はここしばらく皆勤賞でご発表をいただいて研究会を支えていただいている。今回は、IoTの健康機器の広がりなどで取り扱いが問題となっているヘルスデータにもかかわる、米国のHIPAAの改正に関する解説。海外動向の整理&分析は技術やサービスのグローバル化が進んでいる現在非常に重要な発表。

3月2日は個人的にとても大変なことが起こって午前中はひどいことになっていたので、いつもに増して髪ぼさぼさで服装もひどいいものだったが、ご発表者のみなさま・質問をいただいた先生方、ありがとうございました。

2021年電子情報通信学会総合大会(2021年3月9日~3月11日)

3月9日

信頼性研究会、技術と社会・倫理研究会(SITE研究会)と、安全性研究会に参加。SITE研究会は座長、その他は聴講。SITE研究会では、仕事や学業、学習などの活動がオンラインに移行することで、CO2排出量がどのように変化するというシミュレーション。学業・仕事のオンライン化が進めば進むほどCO2排出量が減少するという結果なのだが、学業・仕事のオンライン化が100%進んだ場合と50%の場合、この2つの活動についてのみ比較すると、100%進んだほうが電気消費や物流が増えてCO2排出量が増加するという結果だそうだ。ふむ。ご発表いただいた発表者に加えて、質問をいただいた先生方にも感謝。

3月10日

「BI-12. ローカル5Gの最新動向と今後の展望」を聴講。次の日のプレナリーセッションの講演で、同セッションのチェア・報告者の、大阪大学の三瓶先生が5GPPの日本代表だったということを知る。ローカル5Gはあくまでも私有地内での利用に限られるので、用途として工場や農地などが想定されているとのこと。総務省の担当者も出てきて、いろいろな事例があっておもしろい。ケーブルテレビが各地のローカル5G利用の中心だということも知った。学校のある地元の吉備ケーブルテレビは、ローカル5Gを防災向けサービスに生かす下記の会社には参加していないみたい。岡山県では倉敷ケーブルテレビが出資している。
http://www.rwj.co.jp/

あと、総務省の各地のローカル5G利用の実証実験の一覧。
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu06_02000280.html

5G導入上の課題は通信局の導入・運用経費と、運用者の免許取得。これが利用開始の障壁になるかも。

また、無線LANとローカル5Gの比較は?というフロアからの質問。実証実験では比較は現在のところ行われていない。一般的には、セキュリティの観点では(医療など)ローカル5G が無線LANよりもよい。スペクトルを独占できるのでローカル5Gのほうが通信の確実性が高い。こうしたメリットがあるとのこと。

3月11日

プレナリーセッションを聴講。笹瀬巌電子情報通信学会会長の講演(3 度目のニューノーマルに向けた、電子情報通信学会における活性化・改革への取り)では、「通信とは、通って信(よしみ)を深めること」という話が印象的。Communicationとcommunion(交流・歓談)とのかかわりにも触れられていた。コミュニケーションとは単なる情報・メッセージの伝達ではないという、京都大学大学院文学研究科の水谷雅彦先生の、「会話と社交の倫理学」京都大学のオンライン公開講義「立ち止まって、考える」シーズン2)を聞いた後だったので、さらに印象深かったのかと。

基調講演は2つ。東京工業大学工学院の阪口啓先生は、5Gの標準策定にかかわった経験から、通信とイノベーションについて講演(5G が切り拓く超スマート社会 〜オープンイノベーションとオープンエデュケーションの融合〜)。とくに、移動体通信の2世代で1つのイノベーションが起こるという話が興味深い。直近のイノベーションは3・4世代で動画活用が定着し、現在のオンライン会議やオンライン授業などを支えていること。5・6世代では、4世代の終わりあたりで登場したリアルタイムのVRとARが花開くことになるのだろうか。同じく高安美佐子先生は、数理的方法による社会・経済現象の分析に関するご講演(ビッグデータに基づく社会・経済の科学とその応用)。フェイクニュースが伝播パターンで見分けがつく可能性があるとか、うわさと感染症の伝播は人の接触/コミュニケーションを介して広がるという点では数理的に類比的だとか、取引のパターンを見るとお金が企業間を循環しそのビジネスエコシステム全体が潤うか超大企業のみがお金を吸い上げてしまうかはある定数が決めているとか、おそらく数理社会学・経済学に関心を持たない一般の読書人にも興味深そうな話題がたくさん。こうしたビッグデータによる「形式」(パターン)の研究が、人文学・社会科学の質的研究と結びつくと、より経済や社会の理解が進みそう。基本的に物理学系のジャーナルに研究成果が掲載されているというのはさもありなんと思いつつも、人文学・社会科学との交流がなかなか難しそうでちょっと残念な気もする。

イノベーションを支えるデータ倫理規範の形成」プロジェクト データ倫理セミナー(早稲田大学)(3月9日)

RISTEX「イノベーションを支えるデータ倫理規範の形成」プロジェクトの研究代表横野恵先生(早稲田大学社会科学部)が主催するセミナー。堀井俊佑先生(早稲田大学グローバルエデュケーションセンター)と横野先生がご登壇。堀井先生は、パターン認識人工知能研究における公平性の問題や、プライバシー侵害(複数機関のデータ統合における同意や、特別な値のデータからの特定の個人の識別など)、解釈性の問題(AIが何を持って判断したか不明、AIが着目している以外の問題がないか不明など)について解説。横野先生は、医療倫理からデータ倫理にアプローチ、Human SubjectとData Subjectの比較によって、人を対象とする研究とはまた違う医療資源としての試料・データ倫理の問題を整理。さらに、医療・生命科学分野以外でも幅広い学問分野でデータ倫理が問題となるうえ、研究倫理だけでなく、企業倫理や技術者倫理など、幅広い倫理の対象となることを指摘した。質疑応答では、1)データ取得時の包括同意の根拠となる規制はあるか、2)非常に広い分野でデータサイエンスが実践されているが、医療倫理のデータ倫理がそのままほかの分野に展開できると考えるか、3)情報技術者の技術者倫理はACMの倫理綱領など著名なものがあるが、今後の課題と考えるのはなぜかを質問。1)は厚生労働省のヒトゲノム研究・人を対象とする研究を包括する倫理指針が根拠、2)はおそらくそのままでは展開できない、3)現在の実践と技術者の倫理綱領との結びつきを見るべきとの回答をいただいた。お二人のレクチャーはともに非常によく整理された内容でとても勉強になった。

社会課題共有フォーラム「FUTUREライフスタイル実現に向けて~地域の魅力づくり」(3月11日)

東海国立大学機構 「FUTUREライフスタイル社会共創拠点」主催のパネルディスカッション。上記の信学会プレナリーセッションが終わってから聞いたので、後半のみの聴講。事例や話題は愛知県・静岡県などの東海地方が中心だが、過疎地域への移住など、おそらく岡山県でも問題意識を共有できそうな話題があった。地理的に近接する場所でも移住者の数が全然違うという話や、狭い農地や古い建物が取り残される都市のスプロール現象が海外からの研究者から見ると、日本の都市/町の魅力をつくっているという話が興味深い。都市計画みたいなかっちりと街づくりをすることの限界みたいなものかな?とも思う。 

次世代モビリティ社会を考える夕べ 第8夜「移動の価値とモビリティの未来 (7)」(3月12日)

この講演会は毎回楽しみな話題が多いのだが、時間が合わなくて(ちょうど職場から家に帰る途中だったり)視聴できないことが続いていたが、ひさびさに通してみることができた(と思っていたら、本日(18日)開催の第8夜を見逃した!!しまった!)

この日は、東京大学の稲見昌彦先生の「自在化する身体」と、大阪大学石黒浩先生の「移動とアバター生活」の講演2つ。

稲見先生のお話はのっけから子供のころ忍者になろうと高いところから飛び降り続けて腕の骨を折ったというエピソードで持ってかれるという展開。稲見先生の研究は、身体の自在性をあげていく、自己とは自分自身がコントロールできるものだというデネットの指摘をもとに、技術によって「ウィーナー界面」を変えていくことという俯瞰的なまとめはとくにおもしろかった。さらに、フロアから、こころも思い通りにならないので自己ではないのかという質問があり、技術でこころを自在化することも可能ではという回答。で、「あー、身体のウィーナー界面の操作と同じように、心のウィーナー界面操作するって、ヨガじゃん!ステラ―クさんがヨガ行者みたいな姿している理由が分かった!」という気づきを得た(笑)。

石黒先生は、アンドロイドや人間のミニマムな存在感を感じさせロボットのテレノイドやハグビーの紹介から、オンライン世界のアバターの話題まで。石黒先生の話し方と声を聴いていて、「あ!竹村健一にそっくりなんだー」と、またもやアホな気づきを得た。石黒先生と稲見先生との対話で、予期が人間の経験には非常に重要だという話題があって(旅/移動も始まる前の想像があってこそ楽しい)、人間の知覚や世界・他者認識は知覚というよりも想像・予期でほとんどできているという石黒先生の指摘は、ハグビーやテレノイドの「存在感」のことを考えると、納得すると同時に、私たちの他者理解のぽかっと空いたような空虚さが見えて、どっきり。さらに、こういう論文のことも思い出したり。

A.K.セス(2019)「脳が『現実』を作り出す」『日経サイエンス』 49(12), 41-49.

出張や会議も事前に想像する、そこまで行くプロセスが大事ということを考えると、10分間単純作業をやったり運動しないとZoomにログインできないなんて機能があってもいいかもというアイデアも(ま、冗談ですよね(笑))。

日本科学史学会技術史分科会(科学論技術論研究会共催)オンライン開催(3月12日)

 「科学技術基本法改正と科学技術政策」がテーマ。「ポスト冷戦期」の日本の科学技術政策の俯瞰(早稲田大学綾部広則先生)と、科学技術政策の中での大学改革問題(立命館大学兵藤友博先生)、アメリカの科学技術政策の概観(立命館大学山崎文徳先生)の3つの話題提供。講演後の質疑応答で、「科学技術政策」とは何を指すのか、どのようなレトリック(質疑では「ロジック」ということばが使われたが)で科学技術政策を正当化してきたか、社会的・学術的に望ましい科学技術政策を行おうとする場合どのようなレトリックが必要か、個々のプロジェクトではなく科学技術政策全体の政策評価は行われているのかなどの問いが関心を引いた。大学改革に関しても科学技術政策に関しても、2000年代以降官と産の要請によるコントロールが強いという指摘があったが、直接大学が予算や人事でコントロールされるだけでなく、同時に顧客(卒業生を受け入れる企業や、入学して学費を払う学生や保護者など)のニーズという形でも振り回されている事態をどう見ているのかなという感想も。官も産もなんか振り回されている感じがあるんだよね。なんだろね。

 

LMBA位置情報ビジネスカンファレンス2021オンライン

3月18日「【 Round Table 】位置情報データとプライバシー」

 政府(個人情報保護委員会事務局赤坂晋介氏)、ビジネス(LBMAジャパンガイドライン委員会主任編集委員・株式会社ブログウォッチャー山下大介氏)、大学(大阪大学ELSIセンター岸本充生先生)の講演と対話によるラウンドテーブルセッション(司会は、LBMA代表理事川島邦之氏)。

赤坂氏からは、令和2年個人情報保護法改正のうち、仮名加工情報の取り扱いと、提供先で個人情報となりえる情報の第三者提供に関する本人同意の確認の義務づけについて説明。仮名加工情報は、(1)特定の個人を識別しうる記述(氏名や住所など)の全部または一部を削除・置換し、(2)個人識別符号の全部を削除、さらに(3)不正使用されることにより財産的被害が生じうる情報の削除(クレジットカード番号など)を施した情報のこと。利用目的の変更等の制限や、漏えい等の報告、開示・利用停止等の請求への対応の義務が免除される。一方、サービスの高度化によって、提供元では特定の個人が識別されない個人関連情報に過ぎなくても、提供先でほかの情報と照合することで個人情報となり得る情報(共通IDを使って名寄せできるなど)に関しては、同意の確認が義務となったことが説明された。

山下氏は、LBMAのガイドラインの制定背景と、その概要についての説明。これはネットに公開されているLBMAのガイドラインに関する説明とほぼ同じ。

岸本先生の解説は、一昨年12月の講演とほぼ重なる内容で、位置情報ビジネスに限らず、広く新しい技術やビジネスの登場に当たっては、倫理・法・社会とのすり合わせを行う必要があるとして、ELSIの思想と実践の重要性を主張するもの。特に今回新しい論点としては、政府関係者が参加していたこともあるのだろうが、政府と民間がいっしょになってELSIに取り組む「官民共同規制」の必要性を指摘した点だったように思われる。岸本先生の一昨年の講演については、『フィルカル』誌の拙稿(大谷卓史(2020)「 シンポジウム「ELSI対応なくして、データビジネスなし」聴講記 データビジネスと倫理・法・社会 (特集 「ELSI」というビッグウェーブ)」『フィルカル』5(1), 316-325)を参照。※今気づいたけど、この記事、Researchmapにも、今年の実績報告にも書き忘れていたじゃん!損した!(笑)

以下、3人の対話のメモ。

  • 事業者が位置情報ビジネスを展開するにあたって必要・大事なこと

個人情報保護委員会赤坂氏
事業者が個人情報・個人関連情報(位置情報)をどのように利用しているか利用者・社会にもっとわかりやすく説明していく必要がある。

ブログウォッチャー山下氏
ユーザーにわかりやすくUXの工夫や、文章のわかりやすさ(ずらずらっと長く利用規約・同意事項が書かれているのは不可)に気をつけていく必要があるだろう。
大阪大学岸本先生
事業者が判断しなくてはならないことが今後増えると予想されるので、倫理のような軸が必要。今後の問題に対応するため、官民共同規制のような協力で問題に先んじた対応ができれば。

  • Withコロナの時代、企業は個人情報・位置情報・倫理でどのような点に気をつけるべきか。

大阪大学岸本先生
LBMAガイドライン、いいタイミングで出た。ガイドラインが安心につながる。ユーザーや社会にとってのメリットがどう示せるかが大事。個人情報保護法の改正を待つのではなく、PIAのような業界標準を先手を打って提案し、社内から社外へとケーススタディも蓄積・公開することが重要。データビジネスの利活用を制度化していくべき。
山下氏
事業者の中でのELSIの醸成が必要。新しい取り組みへの障害に萎縮するのではなく、新しい取り組みに挑んでいくため、事業者の構成員の良識を育てていくことが大事。アカデミアや政府との協力ができたことは、事業者以外の見方が取り入れられるので今回よかった。ユースケースとして広げていければ。
赤坂氏
データの利活用ビジネスのキーワードは二つ。セキュリティバイデザインと、プライバシーバイデザイン。民間企業でのセキュリティ対策が進まない要因は、コストとしてとらえられがちなため。プライバシーも同じ構造かも。コストがかかる、個情法があるから仕方なくという企業が多いのでは。コストではなく投資としてとらえてほしい。付加価値がつき、世の中として評価されビジネスとして軌道に乗ることが期待される。プライバシーやセキュリティを前向きにとらえる企業が増えれば。

川上氏
事業者がもっと個人情報保護委員会に相談していくといいのでは。
赤坂氏
個人情報保護委員会はサービス、ビジネスを止めるのではなく、こういう法的整理をすればできるのではないかという提案をできるだけしたい。お気軽に相談していただければと思う。