『PIXARのひみつ展 いのちを生み出すサイエンス』後記ーアマプラの子供向けアニメは結構いいんだが

しかし、だからといって、アメリカの3D CGアニメーションと同じ道を歩むべきかどうかはわからないな。

子どもにつきあって、Amazon Prime(アマプラ)の子ども向けアニメを最近はよく見ているんだけど、海外の子ども向けアニメは必ずしも3D CGアニメーションというわけではない。

子どもがいま好んで見ているアニメーションは、キャラクターも背景も美しくかわいらしく、色彩が豊かで、美術的価値が高いと大人にも思わせるアニメーションが多い。

たとえば、絵本のようなやさしい色彩の絵柄の物語に、「もしもネズミくんにクッキーをあげると」や「うっかりペネロペ」、「リサとガスパール」(現在はアマプラでは視聴できず有料。おや見れるらしい。あとでテレビで試してみよう)など。どれも、動物のキャラクターが登場し、日常の友達や家族との交歓を描くかわいらしい物語だ。また、やわらかでしなやかなおサルなど動物たちの動きや変化のあるストーリーで楽しませる「おさるのジョージ」。こうしたアニメーションは、おそらくデジタル技術で制作の省力化・効率化は進められていると思うが、2Dの絵柄のやさしさかわいらしさが、やさしい夢のような時間を過ごした後、ほのぼのとした感覚を見る者に残してくれる。

もちろん3D CGアニメーションですぐれた作品もあって、色彩豊かで形も面白い動物たちが冒険を繰り広げる「タンブルリーフ」は、人間がいなくなった後のような不思議な終末感を感じさせる舞台設定(実は魔法の島のお話だそうで、人間世界とは隔絶した異世界らしいのだが)と、キャラクター、背景、登場する乗り物や小道具の、毒々しくならないぎりぎりの鮮やかな色彩とデザイン、人形アニメのような動き、独特の奇妙な物語の展開や各回のお話の設定で、悪夢ではないが不思議な夢のような感覚を残す。

大人はちょっとその最後の教訓が謎なことが多くて苦手だけど、ぬいぐるみのようなキャラクターがふわふわとした浮遊感のなかで、子どもたちのように遊び、小さな事件が起こる「うさぎのモフィ」。とくにオープニングは、ぬいぐるみのようなキャラクターが一人ずつ下からぽーんとやさしく打ち上げられるように登場して、やがてみんなでゆるやかな放物線を描きながら楽しく飛び回るというもので、1歳になったかならないくらいの娘を、このオープニングの歌と映像に合わせて持ち上げておろしてと遊ばせたところ大喜びで、このアニメと持ち上げておろして……を毎日要求されて参った、ということもある。

ただし、3D CGアニメーションの子ども向けアニメの一部は、幼児向けの低予算で、お話のパターンが決まっていて、絵も背景も単純な傾向がある。低予算でたくさんつくるという目的で、おそらく3D CGアニメーションを使っている。つまり、省力化して、高品質な仕事をする熟練のアニメーターやデザイナー、背景画家などがいなくても、数分間のパターン化されたアニメーションを量産できるように、3D CGアニメーションが使われている。

デジタルの導入が作業の効率化や新しい表現(「タンブルリーフ」や「うさぎのモフィ」の人形アニメのような感触は3D CGアニメーションだからこそ生きているように思う)に結び付くのは確かだが、必ずしも日本もPIXARやドリームワークスのように、3D CGアニメーションの方向に向かっていくべきであるとは言い切れないように思われる。

というのは、アニメーション現場の過酷さは、制作現場の効率化や省力化を進めるだけでは不十分なだけでなく、場合によってはより制作現場を過酷にするかもしれないからだ。

筆者がデジタル技術による効率化や省力化に希望を持つのは、アニメーション制作現場の過酷さを和らげるかもしれないからだ。

ところが、実際は、このようなアニメーション制作現場の問題は、経済的・制度的な側面に規定される部分が多いとされる。たとえば、テレビやウェブなどで放映される「枠」が増えすぎて制作が需要に追い付かない状況に加えて、製作費が恒常的に不足し、製作費を充実させるため著作権・商品化権収入を活用しようにも製作委員会方式製作委員会方式にもお金を集めやすいなどよい面もあるのだが)によってアニメスタジオにはお金が残りにくいなどの問題が大きな原因と言われている。

それに、90年代以降、世界中の企業がデジタル技術の導入によって、コンピュータやネットワーク、ソフトウェアも含む資本投資を盛んにする一方で、人件費をケチる傾向が指摘されているが(ブリニュルフソンとマカフィーの議論もこれがベースで、90年代以降の不況の大きな原因の一つと指摘していたはず)、日本にも導入した場合、社会・経済的制度がそのままだと、アニメーション制作現場にもさらにこの問題が広がるだけになる可能性もある。

なので、単純にデジタルで3D CGアニメーションーとは言えないんだよね。しかし、本当にPIXARやドリームワークスのようなデジタル化を進めようとするならば、サイエンティストやエンジニアとクリエイターの協力が欠かせないというのは間違いないと思う。